概要
例によって例のごとく「ニコ技深セン観察会」に参加した際に購入したSJCAMのSJ5000X Elite(約1万円)を分解してみました.他のアクションカムとの外観等の比較は「深センで売っている3000円くらいのアクションカムをバラしてみる」にあるので,そちらをご覧ください.実はSJ5000Xについては大分前に少し分解してWi-Fiのアンテナを除去する改造を施していたのですが,先日のLA旅行に持っていき一通り使ったので,とりあえず最悪壊れてもいいかなと決心がついたため完全な分解に踏み切りました.
注意
本分解レポートは分解を推奨するものではありません.また,このレポートを参照した結果生じたいかなる損害についても筆者は責任を負いません.
外箱
外箱についてですが,このカメラの外箱は深セン観察会の後にベトナムへ行ったため,現地で捨ててしまいました.(当時はまさかこれの分解記事を書くとも思っていなかったので…)ベトナムへの道中,南寧のバスターミナルでラフに撮った写真を以下に掲載します.
流石にSJCAMはGoProクローンアクションカムのパイオニアでブランド価値もある程度確立しているだけあって,社名や型番が前面に出た,使い回しの汎用品でない紙箱となっていました.また,ジャイロセンサによる手ぶれ補正もあるようです.
SJCAMのカメラのおもしろい点として,イメージセンサの型番が裏側のスペック欄に書いてあることが挙げられます.SJ5000X EliteはSJ5000シリーズ最上位機種なだけあって,SONYのセンサを搭載してあるとのことでした.また,ここの表記から,補間機能を使って4K,24fpsの画像が撮影できることが分かります.
ちなみに,SJCAMの公式Webサイトを見ると,イメージセンサだけでなく画像処理に使用しているSoCの型番も公開していて,中身の部品で付加価値を訴求していこうという作戦が見受けられます.
その他,外箱の興味深い点としては,SJCAMの純正品であるかどうかをチェックするためのスクラッチシールが貼ってあった点が挙げられます.このスクラッチシールを削って出てくる番号をシールに記載のWebサイトに入力すると,本当に正しい製品かどうかが分かるような仕組みになっています.
分解
さて,本体外観チェックは「深センで売っている3000円くらいのアクションカムをバラしてみる」でやってしまったので,早速分解に取り掛かります.
アクションカムのセオリー通り,フロントパネルは簡単に外れます.今までのアクションカムと違ってSJCAMの製品シールやQCシールが貼られている点は品質管理の体制の違いを感じさせます.シリアルナンバーを見るに2016年8月製造なのでしょうか.
ちょっと見にくいですが,フロントパネルの裏にはSJCAMという刻印があります.ここも使いまわしの汎用品(いわゆる”公模”)でないことを窺わせるポイントです.
フロントパネルの裏にはLEDと電源ボタンを搭載したフレキ基板が取り付けられています.
フレキ基板は両面テープ固定なので,切断しないように注意しながら剥がし,ケースの一番上の板のネジを外していくと,バッテリーが入る部分が外に出てきます.筐体の左端にある銀色のものはスピーカーです.
さらにネジを取っていくと,本体基板が簡単に出てきます.
写真にあるように,グレーのケーブルはパターンアンテナへの同軸ケーブルとなっています.パターンアンテナは筐体の隙間に押し込まれていただけでした.
電波法関連の認証の問題でWi-Fi機能は日本では使用できないので,アンテナはケーブルごと根本から切断してしまいました.
さて,さらに基板を留めているネジを取り外すと,液晶パネルの裏面が見えるところまで分解できたのですが,これ以上分解するためには過去の2台の分解経験から言って,おそらく液晶パネル表面の両面テープによる接着を剥がす必要があり,両面テープによって接着されている背面パネルの薄さによっては戻すことが不可能となってしまう可能性があると判断したため,ここまでで以前は断念していたのでした.
しかし,今回,液晶パネルの裏側を再度よく観察してみると,背面パネルについてもツメのようなもので固定されている可能性が見いだせたため,以前購入した分解用工具を駆使しながら背面パネルもこじってみると,ある程度の部分まではツメを外すことで取り外すことができました.ところが,どうこじっても状態表示LEDがある側の一辺が外せませんでした.
隙間を観察した結果,背面パネルは両面テープによる透明な液晶保護パーツと筐体パーツの貼り合わせによりできていて,筐体パーツは他の筐体の骨組みパーツにネジで留まっていることが分かりました.このネジは貼り合わせた液晶保護パーツにより隠されているため,薄い金属のヘラでこの貼り合わせパーツを剥がすことにしました.以前はこの作業は難易度が高く,液晶保護パーツが曲がってしまう可能性を危惧していたのですが,液晶保護パーツが1mm以上ありそうでそう簡単には曲がらなさそうだということが分かったため,この部分の分解に踏み切ることができました.
液晶保護パーツだけを剥がし,取り外すと左端の上下2箇所に隠しネジがありました.
剥がした液晶保護パーツは透明な部分と塗装により黒く塗られた部分からなるプラスチック板です.両面テープはできるだけきれいに剥がし,組戻し時には新しい両面テープを貼って固定することとしました.
隠しネジも外すと液晶パネルが出てきます.この状態まで来ると,うまく液晶パネルをひねることで筐体と基板群を完全に分離できるようになります.
3000円アクションカムと同様に,液晶のフレキには”SHENGTENG”とのマーキングがありました.
基板うら面
さて,液晶のフレキを外すと基板単体になります.(正確にはボタン類用のフレキもありますが.)まずは基板のうら面を見ていきましょう.
今回はピントが狂うのを嫌ったため,レンズが付いたままの状態で裏を向けて撮影をしました.そのためスペーサーとして使ったFRISKのケースが左下に写り込んでしまっています.(特に基板とは関係ありません.)左上に2つある長穴は記録ボタン用の基板(フレキと一体)を固定するための穴です.
部品チェックに入る前に,個々の部品に関係のない興味深い点を幾つか挙げておくと,700円アクションカムはもちろん3000円アクションカムよりも部品点数が多いということが挙げられます.特に,中央左下寄りにコイルが3個ほど見えるのは今まであまり見かけなかった複雑な電源系統の存在を示唆していました.さらに,テストポイントが大量にあることがわかります.(金色の丸印)これも今まであまり見かけていません.中央下部にはUARTのようなパタンも見えます.
先ほどから述べているように,部品がてんこ盛りでしたが,ICについてはほとんど特定することができました.結論から言ってしまうと,大半のICは電源ICです.
画像処理や記録など,主要な処理を担うのは中央に鎮座する台湾NovatekのNT96660BGです.このチップは最高480MHz動作のMIPS32 CPU,顔認識や手ぶれ補正もサポートする画像処理エンジンなどを集積したSoCのようです.
NT96660BGのすぐ下にある長方形のチップは韓国SamsungのDDR3 SDRAMです.3000円のアクションカムは1Gbit品を搭載していたのですが,こちらは2Gbit品でした.単に調達の都合なのか,NT96660BGの処理能力を活かすには2Gbitが必要なのかは不明です.
小物部品の中には,LED電球やファービーもどきで出てきたMMBT3904Lやクアッドコプターのコントローラーで出てきたNanjing Micro One ElectronicsのME6206K33,汎用品であるため完全に同じものではありませんが毎度おなじみのSPI FlashであるKH25L3206Eなどがあり,段々と知っている部品が増えてきました.
コイルの横に取り付けられてDC-DCコンバーターを構成している電源ICに関しては全面的に台湾Richtekのものが採用されています.RichtekのICを使ったことがあるというのも大きいですが,このメーカーのICはマーキングに癖があるのですぐ分かります.また,これは主観が入った意見ですが,Richtekの電源ICは出力電圧のバリエーションが多く,さらにAliExpressで多く出回っているという印象があります.
写真右上にのX1GVというマーキングのあるチップはおそらく米国Alpha&Omega SemiconductorのAO3401AというP-ch MOSFETです.刻印が違う別の会社の互換品が700円アクションカムでも使用されていました.その横にUN8HXというメーカー不明のICがあり,検索したところリチウムイオンバッテリーの充電ICだという情報だけは分かったため,おそらくAO3401Aは700円アクションカムと同様に電源ラインの電子スイッチとして使用されているものと思われます.
DDR3 SDRAMの左隣には台湾SONiX TechnologyのSN8P2700シリーズと思われるICが搭載されています.ロゴと型番から8bitでOTP (One-Time-Programmable:1回だけ書き込み可能)ROMを搭載したマイコンだと思うのですが,完全に同じ型番のものは発見できませんでした.SN8P2700シリーズの仕様書を見るに,Microchip社のPICのようなシンプルなMCUのようです.
その他に,半導体ではないですが,超小型のボタン電池らしき部品が搭載されていました.時刻を動画に写し込む機能があるので,本体のバッテリーが切れた時に時刻情報が飛ばないようにするためのバックアップバッテリーかもしれません.時刻を写し込む機能は700円アクションカムにも3000円アクションカムにもあるのですが,このような部品はそれらには搭載されていませんでした.
基板おもて面
基板おもて面のチェックに移る前に,基板うら面の2つのネジを外すことでレンズマウントごとレンズを外すことができました.700円アクションカムに比べるとセンサーサイズも大きいため,レンズに入っているフィルターも大きめとなっていました.しかし,レンズ径自体はさほど変わらず,マウントも同じM12マウントのようでした.
さて,レンズマウントを外した基板のおもて面ですが,チップは少ない反面,おびただしい数のコンデンサが印象的でした.センサーについては顕微鏡で覗いてみたものの,特にメーカー名のヒントになるようなものはありませんでした.ただ,OmniVisionのセンサーとは異なり,センサーの撮像面側にボンディングワイヤが飛んでいました.(OmniVisionのセンサーは裏面に端子が出ています.)
また,おもて面にはSJCAMのロゴが入っており,いままで分解してきたものと違ってここでもブランドがはっきりと分かるようになっています.
おもて面の部品のうち,写真中央上側のQFNのICだけは正体が特定できませんでした.バッテリー端子のそばで,バックアップバッテリーのうらにあたる部分であるので,電源ICか時計ICではないかと最初は考えたのですが,ジャイロセンサーによる手ぶれ補正機能があると謳われているにも関わらず,それに対応しそうなICが他にないので,おそらくジャイロセンサーなのではないかと考えています.
左側にはWi-Fiモジュールが搭載されています.ここに搭載されているRTL8189ETVは3000円アクションカムでも出てきたICです.PC向け無線LANチップではよく見かけるという印象がありますが,こんなところでも着実に高いシェアを築いているのだということが窺えました.
PS3120Aはクアッドコプターの回でもカメラのそばに搭載されていた4.95Vを出力するICです.ここでもおそらくCMOSセンサーの電源がそのような電圧を要求するのだと思います.
その他の3つのICはまたしても台湾RichtekのRT9013という電源ICで,3.3V,2.8V,1.8Vを出力するものがそれぞれ1個ずつ搭載されています.RT9013はデータシートによれば”Ultra-Low Noise”とのことなので,おそらくCMOSセンサーのアナログ系統など,ノイズにシビアな系統の電源供給を担当しているものと思います.
所感
700円アクションカムと3000円アクションカムを比較した際にも指摘した点ではありますが,2K(&補間4K)の動画という比較的大きなデータを取り扱うこともあり,ネイティブ解像度がVGAの700円アクションカムに比べると部品数が非常に多くなっていると感じました.
では扱うデータサイズがあまり変わらない3000円アクションカムと1万円アクションカムでは部品点数にほとんど差がないかというとそんなこともなく,明らかに1万円アクションカムの方が部品点数が多いと感じました.おそらく,センサー用電源のノイズ対策のために低ノイズ品を採用したことで電源ICがさらに多くなったためだと思います.
また,部品に関しては台湾Richtek製の電源ICを筆頭に,やはり中国本土のメーカーの製品は少なめという印象を受けました.やはりなにか理由があるのでしょうか.
700円アクションカムから3000円アクションカムへの飛躍とは異なり,3000円アクションカムに色々と足していくと1万円になるのだ,という想像ができるような製品ではありましたが,センサーのようなキーパーツに高級品を採用しただけでなく,ノイズへの気配りや筐体パーツの点数,基板やパーツに見られるロゴ,製品シールなど,その他の部分の細かい「出来の良さ」が感じられ,なるほど3000円と1万円の差はここにもあるのか,と納得してしまった一品でした.
ちなみに,最初に書いたように,先日のLA旅行に700円,3000円アクションカムと共に持っていき,同じ場所でテスト撮影を行ったので,画質比較記事についてもそのうち投稿する予定です.お楽しみに!(2017/03/09:早速ですが投稿しました!→「3種類のアクションカムを比較してみる」)