2018年秋のシベリア鉄道の旅、モスクワ街歩き編赤の広場編と打って変わって今回は電気街巡り編です。主に滞在2日目を使い、モスクワに何箇所かある電気街を回りました。

電気街マニアの道の駅?ミーチンスキー・ラジオリノク

2日目の最初に行ったのはモスクワ市とそれを囲むモスクワ州の境界にほど近い道の駅、もといミチノ(Ми́тино)駅そばのミーチンスキー・ラジオリノク1です。モスクワの電気街というと中心部にほど近い、次に紹介するガルブーシュカが取り上げられがちで、日本語だとこちらのページくらいしかヒットしないミーチンスキー・ラジオリノクですが、Yandexの地図で確認しても現存するようだったので行ってみることにしました。

ミチノ駅まではモスクワ地下鉄3号線で1時間かけて行くことができますが、限りのある滞在時間を有効活用すべく、ホテルからYandex.Taxiで行くことにしました。モスクワ中心部から郊外まで、幹線道路をほぼ真っすぐ走るコースになります。写真にある変わった形のVTBアレーナという競技場を横目に見たりしながら、モスクワではよく見かけるチェコの自動車メーカー・SKODA(シュコダ)のセダンと運転手さんの荒い運転で道路をガンガンかっ飛ばしていけば30分程度で到着します。モスクワのライドシェアサービスはハンドルさばきが荒いだけでなく、道路がそこそこ整備されていることもあって場所によっては100km/h以上出していて、東南アジアのワイルドな運転とはまた一味違ったスリルを味わうことができます。

そしてこちらがミーチンスキー・ラジオリノクです。上層階はホテルも兼ねているようです。確かに周りは団地っぽい建物が多く、他に宿泊施設らしいものはなかったので多少需要はあるのでしょう。

正面玄関から入るとこんな感じです。お客さんの厚着な装いやキリル文字が見えなければ香港・東南アジアの古めの電気街ビルと雰囲気は似ているといえるかもしれません。この時点でかなり期待が持てそうだという印象でした。

1階の入ってすぐの辺りは携帯電話の販売店が数多く並んでいました。1枚目の写真や3枚目の写真にあるように、携帯電話と並んでホバーボードの展示が多くあったのが印象的でした。

その他、写真のようになにか醸造するための機材でしょうか、私には使い道がよくわからない釜のようなものなど、金物系の取り扱いがあるのが特徴的でした。

その他もちろん半田関連製品も置いてありました。見慣れたカラーリングですがロゴがどうも違うような気が…

さて、このミーチンスキー・ラジオリノク、その本領は一般市民も利用しそうな1階の携帯電話売り場ではなく、マニア感満載の2階にあると言っても過言ではないでしょう。2階に上がると明らかに客層も商品のディープさも変わります。ズラッとマザーボードやグラフィックスボードの外箱が並ぶPCパーツ専門店、秋葉原のラジオセンターやラジオデパートにありそうな、カウンターで部品名を伝えると奥の引き出しから部品が出てくるタイプの部品店などなど、電気街マニアからするとまさに求めていたのはこれだ!と言いたくなるような雰囲気の空間が広がっています。上の写真はPCパーツショップの端で展示されていたPSVITA向け車載充電器です。「ミニカー充だ」「どうしてもっと急速充電で:[だった」など、なかなか味わい深い表記がされています。

また、古すぎてジャンクなんだかなんなんだか分からないソ連時代の電子部品も展示されていました。2枚目の写真のIC群の中にはソ連製の8085 CPUとその周辺ICのデッドコピー品なんかもありましたが、店員のお兄さん曰く「これは俺のコレクションだ!2」とのことで、売る気はないようです。もはや博物館ですね…

もちろんICだけでなく、東側諸国では西側諸国に比べて活躍していた時期が長かったといわれる真空管のジャンクも豊富に販売されていました。二枚目の写真の箱の中の真空管は1個40ルーブル(当時70円程度!)です。普通の三極管や五極管に混じってニキシー管なんかも入っていて、記号表示管のIN-15A/Bをゲットしました。その他、蛍光表示管も複数種類入手することができました。帰国時に向けての梱包が大変だった(旅先でプチプチのシートを買ったのは今の所このときだけ…)のと、帰りのイルクーツクの税関で若干怪しまれたのも今やいい思い出です。このように、ミーチンスキー・ラジオリノクは最近は秋葉原でも見かけにくくなった怪しいジャンクからPCパーツ、スマホまで扱う、まさしく電気街ビルでありました。規模でいえば世界一の電気街は中国・深圳の華強北電気街だと思いますが、このミーチンスキー・ラジオリノクはソ連・ロシアのエレクトロニクスの歴史が集積したディープな電気街として、秋葉原などと合わせたマニアな電気街のトップ集団の一角と断言できます。ちなみにあまりにディープで面白かったことと、後に出てくるChip&Dipを教えてくれた金沢大学の秋田先生に探し物を頼まれたこともあり、滞在3日目ももう一度訪問したのでした。

こちらはミーチンスキー・ラジオリノクを出て、裏側から撮った写真です。こちらから見ると、”Отель Митино(Hotel Mitino)”の文字だけが見えて、変わった色合いのホテルにしか見えません。

そしてこちらはミーチンスキー・ラジオリノクの道路を挟んで向かい側に建てられていた団地らしき建物です。このいかにも計画的に建てました!という感じとちょっと寂れた色合い、なんともいえません。

ちなみにモスクワ滞在3日目に再訪した時はミーチンスキー・ラジオリノク内の売店でピロシキを買って食べてしまいました。ビルの中にご飯コーナーが併設されているのはいいですね。

定番・ガルブーシュカ

さて、ミーチンスキー・ラジオリノクの次はよく「モスクワの秋葉原」として紹介されるガルブーシュカ(Горбушка)に行きました。ミーチンスキー・ラジオリノクと比べるとかなりモスクワ中心部に近いエリアにあります。

こちらも入ってみると1階はスマートフォンを始めとした携帯電話ショップが多数ひしめいていました。客引きのお兄さんが多いのがミーチンスキー・ラジオリノクとの違いでしょうか。

フロアを上がっていくと、携帯電話ではなくトランシーバーを扱うお店も見られました。PCパーツに関してはどのフロアでもあまり見かけなかったという印象です。

こちらは階段のところに張り出してあったフロアガイドです。1階(1 этаж)と2階の間に”A сектор”とあるように、中二階的なところには小さい店舗が連なっているのではなく、家電量販店がひとまとまりにフロアを借りて家電を売っているエリアがありました。逆に言うと、白物を含めた家電を一揃い売っているのはそのエリアだけでした。

一方、上層階ではスマホやデジタルガジェットに代わり、写真のようなガラス製品やお土産品、釣具など、電化製品とは関係ない製品を売るお店の比率が非常に高くなっていました。Web上のガルブーシュカに関する記事を見ると以前はそんなことはなかったようなので、各国の電気街で昨今よく見られる「PCパーツと同様に、商品自体は小さく、単価は高い他ジャンルの商品(例:化粧品)の販売に業態をチェンジする」現象が起きているのではないかと思います。華強北の一部のビルやタイ・バンコクのパンティップ・プラザでもこのような現象が見られます。

4階には合気道の教室まであるようです。総合雑居ビルへの転身を図ろうとしているということなのでしょうか。電気街ビルのファンとしては複雑な心境です。

そんなわけで予想よりも衰退していたガルブーシュカに若干がっかりしながらも外に出たところ、ガルブーシュカのすぐ隣の平屋に”MY GADGET SHOP”という気になる看板を発見。なんとなくキリル文字が読めるようになっていたこともあり、”3D принтеры(3D Printery)”という文字にビビッときて、入ってみることにしました。

入るとご覧の通り、3Dプリンタや3Dスキャナーのショールームになっていました。大型のMakerBotのプリンターから廉価な機種、光造形式まで展示してあり、かなり充実しているという印象を受けました。

ロシアのマルツ?Chip&Dip

さて、電気街巡り編の最後として、厳密には電気「街」ではありませんが、ロシアで展開している3電子部品店チェーンの”ЧИП и ДИП(Chip&Dip)”を紹介したいと思います。私がロシアに出発する少し前に、学会参加のためにモスクワに行っていた金沢大学の秋田先生が「ロシアのマルツ4だ!」と言っていたため、私も行くことにしたのでした。

たしかに市街地にいきなりテナントとして入居していて、コンビニやスーパーのような入り口があるあたり、入る前からマルツ感があります。

入ってみると中はこんな感じです。工具や電設資材、パッケージに入った電子工作キットなどはこのように店内の棚に陳列されており、自由に手に取ることができます。面白かったのはChip&Dip独自企画のArduino互換基板など、自社開発キットの品揃えが豊富だった点です。私はADAU1401(Analog Devices)というオーディオエフェクト処理用DSPが載ったChip&Dipオリジナルのブレイクアウトボードを購入しました。

細かい部品はこの通り、店員さんに部品リストを渡して奥の引き出しから撮ってきてもらうシステムです。この点はマルツというよりは秋葉原の昔ながらの部品店に近い感じですね。むしろ自分で細かい部品を取るシステムになっている部品店は各国回ってみても少ないので、これが普通なのではないかと思います。個人的にとても印象に残っているのが、私がカウンターの辺りを歩いている時に、部品リストを握りしめた小学生くらいの男の子がお父さんらしき人と部品を買いに来ていたことです。子供が電子工作に挑戦できる環境が揃っているのはとてもいいことだよな…!と一人でニンマリしてしまいました。

以上、2018年秋のシベリア鉄道の旅・電気街巡り編でした。ガルブーシュカが前評判に比べて少し寂れてしまっていたのは残念でしたが、ミーチンスキー・ラジオリノクとChip&Dipの活気を見るに、ロシアの電子工作・Makerの層はなかなか厚そうだと思った電気街巡りでした。次回は2018年秋のシベリア鉄道の旅・最終日&帰国編です。お楽しみに!

 

  1. ラジオリノクは「ラジオ市場」の意
  2. ボディーランゲージ訳
  3. 2020年9月現在、ベラルーシの首都・ミンスクにも1店舗あるようです!
  4. 日本の電子部品店チェーン。秋葉原などのいわゆる電気街以外の場所にも展開しています。
公開日:2020/09/06