概要

例によって例のごとく,「ニコ技深セン観察会」の主催である高須(@tks)さんに頂いた偽ファービー(?)”marbo”を分解してみました.

注意

本分解レポートは分解を推奨するものではありません.また,このレポートを参照した結果生じたいかなる損害についても筆者は責任を負いません.

外箱

marboはいかにもおもちゃというような雰囲気の箱に入っていました.「早教机器人」,つまり早期教育用ロボットのようです.

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側面や背面にはいろいろな機能の紹介がありました.タッチセンサーを内蔵していたり,昔話を聞かせてくれたり,スマホと通信したりできるようです.

本体外観

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箱から本体を取り出してみました.水色の部分の手触りはシリコーン樹脂のようなちょっと手に吸い付く感じのマットな風合いになっていました.
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背面には大きなスピーカーの穴らしきものがあります.

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底面には電源スイッチがあります.説明書きを読むに音声認識モードと通信モードの2種類があるようです.また,見にくいですが写真左側にUSBポートがあります.

足の裏と底部

さて,分解に取り掛かるわけですが,どうやら足の裏をまずは分解しないと,電源スイッチの横の気になる蓋も外せないようだったので,足の裏の4つのネジを最初に取り外しました.

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足の裏のネジを取り外すと,青い胴体のパーツが少し見えました.このパーツがツメのようになっているのと,左右それぞれ1つずつのネジが足を固定しているようです.また,長方形の穴からは黄色い板が出ていて,どうやらこれが上下に動くことでmarboがジタバタするアクションを実現しているようでした.

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上記のネジとツメを外すと,簡単に足のパーツは外れました.足のパーツを外すと,marboの上下動のための板がはっきりと見えました.

謎の電池ボックス的空間

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さて,足が完全に外れたところで,おしりの部分の気になる蓋のようなパーツを取り外すことにしました.ネジを外すとこの部分はすんなりと外れました.

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蓋を外すとなんともまあ雑な緩衝材2個の間に挟まれたリチウムイオンバッテリーが現れました.

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緩衝材を外すと,コネクタとそこに接続されているバッテリー,という形態になっていることが分かりました.どうやらこの空間は電池ボックスのようです.しかし,リチウムイオンバッテリーを入れるだけにしては緩衝材を詰めるくらいに広すぎ,さらによくわからない丸みがケース内についています.

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ちょっと見にくくて申し訳ないのですが,よく見るとこの電池ボックスの上部には”1.5V AA”という文字入りの電池のイラストが描いてあります.どうやらもともとはリチウムイオンバッテリーではなく,単3電池4本を格納するための電池ボックスだったようです.過去の製品の使い回しか,あるいは本当にギリギリまで乾電池駆動を意図していたのか…

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ちなみにリチウムイオンバッテリーは700mAhでした.外箱には1400mAhとの記述があったので,謳い文句の半分の容量のバッテリーということになります.

内部構造

配線が飛び交う内部

バッテリーと電池ボックスを元に戻し,本体背面のネジをすべて外すと簡単に筐体が半分に分かれました.

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内部は写真のように大量の配線が飛び交っていました.

背面部へ伸びている配線はスピーカー,電池ボックス,電源スイッチへの3系統だけだったので,まずはこれらだけを基板から外しました.

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まだまだ配線は多いですが,これで前面側をじっくりと観察できるようになりました.

まずいちばん気になるのは両手と頭部に貼ってある銅箔テープです.これは売り文句であるところの頭を撫でられたりしたことを検知する機能を実現するためのタッチセンサーの検出用パターンだと考えられます.通電する広い平面が必要なので,銅箔テープを使ってタッチセンサーを実現するのは割とDIYの世界ではよくあることのように思いますが,量産品でも銅箔テープを貼ってしまうのかと驚きました.

その他,胴体下部に駆動系が集中しているのも見えます.さらに,ちょっと見にくいですが左下(下側の足の黄色い板の付け根付近)にはマイクが取り付けられているのも見えます.

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背面側は至ってシンプルな作りですが,スピーカーの背面ケースなどはけっこうよく出来ているという印象です.

部品数の多い本体基板

さて,一通り眺めたところで,コネクタを全部取り外し,メインの基板を抜き出しました.

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やたらと多いテストパッド,未実装のコネクタ,SDカードなど色々と気になるポイント満載であります.SDカードの上や左端の緑色の部品の横のカードエッジコネクタらしきものはバックライトモジュールの端子です.dsc01828

表側にはmarboの目の表情をつくる液晶パネルが実装されています.表面を覆うようにバックライトモジュール(白色の板状のパーツ)が実装されていて,さらにバックライトモジュールと基板の隙間に液晶本体のフレキ配線がはんだ付けされ,バックライトモジュールの下側から配線が引き出されていました.

毎度おなじみの部品チェックですが,今回は部品数が多いのでまずは大きめの部品からです.

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大きめの部品は刻印のないものが2個もあった上,ついに分解記事5個目にしてCOB(Chip on Board)実装のICが出てきてしまいました.COB実装とは,シリコンチップから足を引き出して樹脂パッケージに格納するいわゆる普通のICとは異なり,シリコンチップをそのまま基板に実装し,チップから直接基板上のパターンに配線を伸ばす実装方法です.(参考)足を引き出さないで済む分,全体を小さくできるのですが,分解する側としては完全にノーヒント(どの配線がどこから出てるか,というようなことも樹脂に覆われているので分からない)なので手も足も出ず,つらいものがあります.(もちろん,製造側はそんなことは考えないでしょうが…)

右下のmicroSDカードのそばに見えるICはマーキングがわざわざ塗りつぶされていました.microSDカードの中身はMP3ファイルで,子供向けの歌や童話でした.(分解後にUSB経由で接続してみたら同じものがPC側から見えました.)SDカードの配線は隣接するこのICへ伸びていたので,おそらくMP3ファイルの再生機能はこのICが担っているものと思います.また,LD332xという中国語音声認識ICが同じようなピン数でMP3再生機能付きなので,おそらくこの手の音声認識とMP3再生機能を兼ね備えたICではないかと思います.(LD332xのメーカーサイトには上記の写真と同じパッケージのICはありませんでしたが…)

中央上部のICはスピーカー用のオーディオアンプのXPT4871です.もともとはNational Semiconductor (現在はTexas Instruments,松下電工とは関係ありません)のLM4871というICのようですが,汎用のアンプICなので勝手に互換品を製造している,といったところだと思います.

その左隣は25シリーズのコモディティ品なSPI Flashメモリです.SDカードには音楽や昔話のデータしかなく,ちょっとしたmarboのリアクションの音声や液晶に出る目のアニメーションはここに格納されているだろうと予想して,データを吸い出してみようとトライしてみたのですが,どうもうまく行きませんでした.実装済みの状態でデータを吸い出そうとしたので,周囲の回路の関係でうまくいかなかったのかもしれません.

最後に,さらにその左隣のICですが,こちらも全くマーキングがありませんでした.ただ,その上部の4ピンのコネクタからは頭部と左右の手の部分の銅箔テープへのケーブルが伸びていたので,おそらくタッチセンサー用ICだと思います.静電容量式のタッチセンサーが普及したこともあり,1チャンネル用から多チャンネル用まで,様々なタッチセンサーICが容易に手に入るようになっています.

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次は小物部品です.小物部品は同じものが複数箇所に出てきたりしたので今回は色分けしてみました.

写真左側のオレンジ色の囲いの中の部品は管の中に電極とボールが入っていて,傾けるとボールと電極が接触することで通電する,原始的な傾斜センサーです.

その左隣の黄緑色の部品はNanjing Micro One ElectronicsのICのようですが,型番までは特定できませんでした.メーカーが特定できた理由は後述します.マーキングは”T4NH”でしたが,検索しても特に情報は得られませんでした.

上記の2つの部品の上部や右上に集中している赤囲いの部品は「深センで売っているBluetoothスピーカ電球をバラしてみる」にも出てきたMMBT3904Lです.バックライトやモータの駆動回路の一部を構成しているようでした.

右上と左下にあるのはVishay SiliconixのSi2301SDというPチャネルMOSFETでした.比較的大きい電流を流せるトランジスタなので,モータの駆動等に使われているのだと思いますが,普通はNチャネルMOSFETを使うような気がするので若干不思議です.(何かしら理由があるのだとは思いますが,そこまできちんと回路を追っかけてはいないです…)

中央下の紫色の囲いの中のICはHoltek SemiconductorのHT7350という3端子レギュレータ(電源IC)です.型番を見る限り5Vの3端子レギュレータなのですが,バッテリーはリチウムイオンバッテリーで3.7Vを供給しているはずですし,コイルも見た感じないのできちんとした昇圧回路があるようにも見えませんでした.一体何のためのICなのでしょうか・・・?

(2016/10/10 20:33追記:よく見るとコイルは基板左上にありますね.もしかすると5V以上の電圧を何かが供給しているのかもしれません.)

HT7350の右側のピンクの囲いの中にあるのはNanjing Micro One ElectronicsのME6206A30M3GというICのようです.先ほどの黄緑色の囲いの部品も含めて,メーカーを特定するのに一苦労しました.とりあえず,このICの拡大写真を以下に示します.

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こんな感じの,謎のロゴと”65Z5″という型番の描いてあるICでした.実はこの謎のロゴは「深センで売っているクアッドコプターをバラしてみる」に出てきた”54PD”,”662K”というマーキングのある正体不明の部品と同じロゴでした.”662K”のほうはどうやらTorex Semiconductorの3端子レギュレータの互換品であることが分かっていたので,こちらも同じような互換品なのではないかと,”65Z5″で検索した所,どうやら3.0V出力の3端子レギュレータであることが分かりました.

Torexの3端子レギュレータの互換品はAliExpressに大量に出ているので,もしかしたらこのロゴ入りの部品も売られているのではないかとAliExpressで検索した所,このロゴ入りの互換品を売っているお店を発見できたので型番が”ME6206A30M3G”であることが分かりました.型番の頭文字の”ME”を”XC”に変えるとTorexの型番に変わると思うので,互換品として売る気満々というところでしょうか.この型番で再度検索をかけた所,メーカーにたどり着くことが出来たというわけです.主に電源ICを製造しているメーカーのようなので,以前の部品についても電源ICであると推測していたのはおそらく合っているものと思われます.

最後に,茶色の囲みの部品ですが,こちらはShenzhen City Koo Chin ElectronicsのSS8550というPNP型トランジスタだと思われます.SS8550は以前出てきたS9014の対となるPNP型のトランジスタ,S9015に比べると大きな電流が流せるトランジスタです.SS8550と対になるNPN型トランジスタはSS8050ですが,こちらも(中国で)非常によく使われているトランジスタだと思います.

機構部の分解

さて,次は機構部の分解です.

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まずは足の黄色い板をギヤボックスに止めている2つのネジを取り外しました.写真では随分ピンぼけになってしまって申し訳ありませんが,モータの端子部にはコンデンサだけでなくコイル(多分抵抗ではないと思います)も使ったノイズフィルタが取り付けられていました.高負荷かつ大きめのモーターなのでこうしないと誤動作したりしたんじゃないかと勘ぐってしまいます.

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黄色い板は中央の白いパーツにネジ止め(セルフタッピングネジ)されていますが,ネジを軸としてある程度自由に動くようになっていました.

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ギヤボックス側はこのようにクランク状になっていました.偏心した丸い軸の部分が足パーツの白い部分にはまって,このクランクが回転することで足パーツが上下動するようになっていました.さらに,クランクの右端の三角のツノのような部分が上部の金属板2枚のスイッチを押すようになっていて,クランクが1回転したことを検知できるような仕組みになっていました.

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ギヤボックス部を取り出して反対側を見ると,ギアボックスへ動力を伝えるためのプーリーや,まぶた部を動かすためのクランクがありました.

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ギヤボックスを外すと前面はこんな感じになっていました.目のクリアパーツは基板で押さえ込まれていたので,ネジで止まっていないので簡単に取り外せます.

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目のパーツを取り外すとまぶたの機構が見えやすくなりました.写真中央左寄りの白いパーツがスライドレール状になっていて,中央の長穴に先ほどのギアボックスのクランクが接続されるようになっています.クランクが回転すると,スライドレールが前後に移動して,金属線の先に接続されたまぶたパーツも動くというわけです.

ちなみにギアボックスは一つなので,足を動かすのとまぶたを動かすのは常に同時になってしまうようでした.ギアボックスの裏表で減速比がちょっと違うように見えたので,極端に単調にはならないように工夫しているようではあります.

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さらに胴体の下部にはUSBコネクタやボタンのための基板が刺さっていたので,これを取り外しました.中央の丸い白いパーツは音量調整ボタンなのですが,圧電スピーカも取り付けられていました.
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基板を取り外すと,ICが1個だけ実装されていました.マーキングは”L2D92″とあるのですが,検索しても特にヒットしませんでした.ただ,USBポートから電源を取っていたり,充電インジケーターらしきLEDへ配線が伸びていたりするので,おそらく充電管理ICじゃないかと思います.”MB_B_V04″の”MB”が”MarBo”ということなのでしょうか.

ちなみにUSBは電源だけでなく,信号線も中央の基板へのコネクタに引き出されています.(この時にUSBのデバイスとして普通に振る舞うであろうことに気が付きました.)

所感

メカ部品も多く,なかなか内部がごちゃごちゃとしていましたが,基板やメカ部品などの造りはおおよそ良いという印象でした.ちなみに分解後に組み直して起動してみて,「你叫什么名字?(あなたの名前はなんですか?)」と聞いてみた所,「我叫妈宝!」ときちんと回答してくれたので,片言中国語(?)をきちんと認識するレベルの高精度の音声認識機能が備わっているようです.

ちなみに,ここまでの分解を見て分かるように,通信機能が売りとして書いてある割に無線モジュール等は搭載されていませんでした.さてどうやって通信しているのか,と考えてみたのですが,おそらく超音波で通信しているのだと思います.実はリバイバル版のファービー(初代には通信機能はなかったはず)も同じ手を使ってスマホから餌やりができるようになっていました.スピーカーが背面にあるのに音量調整ボタンの裏にも圧電スピーカーが用意されている点も,超音波のような高い周波数を効率よく出すためと考えると納得がいきます.

目に関しても,初代ファービーはプラ部品の目玉とまぶただったのですが,リバイバル版のファービーはこれと同様に液晶の目とプラ部品のまぶたでした.液晶パネルの目玉にすると,目で表情を出しやすくなるため,かなり表情のバリエーションが増やせます.一方で平面になるので「目玉感」という意味では今ひとつかもしれませんが,物理的に動くまぶたが違和感を減らしているのではないかと思いました.

単に見た目だけでなく,顔の造りや超音波での通信など,システム的な面まで含めてファービーをかなり研究したんだろうなあという感想です.

気になるくちばし

…と,いつもならここで終わるところなんですが,この偽ファービー,かなり気になるポイントが幾つかあります.

  1. 単3電池で動かそうとした形跡がある電池ボックス
  2. 電源供給元が分からない5Vの3端子レギュレーター
  3. 何も接続されていない”MOUTH”という名前のコネクタ
  4. いかにも動きそうなくちばし

1.と2.はすでに記事で取り上げているとおりで,これに関してはおそらく,最初は乾電池仕様で設計していたか,以前乾電池仕様のモデルがあったということなのだと思います.乾電池4本の直列仕様だと,電源電圧が6Vとなるので,5Vの電源ICがあってもおかしくありません.ただ,モーターとスピーカーがあって延々と動くロボットなので,乾電池ではすぐに電池切れになってしまうと思うので,もしかすると経済的でないと判断したのかもしれません.

3.と4.は記事では取り上げなかったので,ここで取り上げます.まずは3.です.

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基板写真の再掲ですが,SDカードの上,右端の2ピンのコネクタの下に”MOUTH”と書いてあります.ここには何も配線が接続されていませんでしたが,その近辺にあるのは大きな電流が流せるトランジスタなので,モーターが繋がりそうな雰囲気であります.

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次に4.ですが,この通り,くちばしの下側はパーツ上部を軸に回転しそうな取り付け方になっていて,さらに金属線かなにかが取り付けられそうな丸穴が開いています.

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よくよく考えると,ギアボックスの上部にもよくわからないコの字型の部分がありますが,小さいモーターならここに取り付けられそうな雰囲気です.

おそらくmarboの開発段階の最後の方まで,くちばしも発話に合わせて動かすつもりだったが,コスト,あるいは回路の問題,電池の寿命の問題等,何らかの問題で,くちばしを動かす機能はカットされてしまった,ということなのではないでしょうか.

大量に出ているテストパッドや,未実装のコネクタ,上記に書いた気になるポイントなど,限界までコストを削りました!というよりは,仕様がギリギリまで決まらない中見切り発車で製造を始めたりしたのか,妙な余裕がある設計のように見える一品でした.