概要

深センで買った700円アクションカムをバラしてみる」を公開した所,とても反響が大きく,そもそも私が深センに行くきっかけとなった「ニコ技深セン観察会」の主催である高須(@tks)さんや一緒にツアーに行った方々からいろいろと分解用のガジェットを頂いてしまいました.(ありがとうございます!)

今回は頂いたガジェットのうち,手っ取り早く分解できそうだった高須さんから頂いた深センで売っているホバーボード(バランスを取りながら立ち乗りする左右にタイヤの付いた電動二輪車)の電池を分解してみました.

注意

本分解レポートは分解を推奨するものではありません.また,リチウムイオン電池はエネルギー密度が高く,取り扱いに注意を要するものです.また,このレポートを参照した結果生じたいかなる損害についても筆者は責任を負いません.

外観

外観はいわゆるフィルムで包まれた普通の組電池です.普通と言っても,フィルムで包まれた組電池は一般的にニッケルカドミウム電池やニッケル水素電池が多く,リチウムイオン電池の場合,普通はもう少し頑丈なプラスチックのケースに入れるのが一般的だと思います.

電池の表面のシールの表記

電池パックの表面には「扭扭车专用锂电池」とあります.「扭扭车」が「ホバーボード」に対応するのだとは思いますが,深センの街なかでは「平衡车」表記を多く見かけた気がします.ちょっとググると,「扭扭车」はバランスを取らないで済むような電動の小型の車も表すようです.その次の「专用」は「専用」,「锂电池」は「リチウム電池」のことのようです.

「型号」には「2并(並)10串」とありますが,これは2並列・10直列に電池が接続されていることを示していると考えられます.リチウムイオン電池は1セルあたり3.6Vなので,10直列だと仮定するとその下の「电压」の欄の「36V」との辻褄が合います.また,「容量」の欄に「4.4Ah」とあるので,2並列・10直列とすると,1セルあたり2.2Ah(2200mAh)となり,1セルあたりの容量として比較的現実的な値となります.

一番下の「生产日期(製造日)」の表記はさておき,私が一番深センらしいなと思ったのが「电芯(電池)」の欄です.「三星动力(三星動力)」と「国产动力(国産動力)」があり,「国产动力」にチェックが入っています.これはつまり,サムスン(三星)製でなく,中国産の電池を使っているということを示しているのだと思います.高須さんによるとこの他にもLGの電池を使っているモデルもあるとのことでした.

この電池をくださった高須さんによると,この仕様のシールは購入の際に飛行機に載せる旨を店員に伝えた所,その場で印刷して貼ってくれたということでした.さて,どこまでこの表記が正しいのか非常に気になるところです(そこが怪しいのでぜひ分解してほしい,ということでもあったようです).

余談:機内持ち込み可能なリチウムイオン電池の制限

JALのページによると,リチウムイオン電池については「ワット時定格量が160Wh以下のもの」に限る,となっています.ワット時定格量は単位が[W・h]なので,電池の容量の[A・h]表記に電池の定格電圧を掛けることで求めることが出来ます.今回の電池のシールの表記を信じるのであれば,4.4[A・h]×36[V]=158.4[W・h]となり,この制限にギリギリ引っかからないということが分かります.

外装の分解

さて,一通り外観の紹介が終わったので,分解にとりかかります.

最外周のフィルムは電池に傷を付けないような場所を選び,切り込みを入れると後はすんなりと剥がれていきました.熱で収縮させているだけのようです.(バッテリーに熱をかけていいのかはさておいて…)
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フィルムをはがすと,内側のフィルムが現れます.縦方向と横方向にそれぞれフィルムをかけることで,全体を囲うという設計のようです.

内側のフィルムには,このようなテープで貼った箇所が2個あったため,このテープを2箇所剥がしました.

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テープをはがすと,フィルムが剥がれるかと思いきやフィルムの余分をまとめていただけのようで,ここでも電池に傷を付けないように慎重にフィルムに切れ込みを入れ,裂くように剥がしました.dsc_1432

2枚目のフィルムを剥がすと,黒い厚紙で保護された電池の本体が出てきました.外観からなんとなく分かってはいましたが,円筒形の電池が組になっているようです.
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厚紙を剥がす

厚紙と組電池は粘着テープや接着剤で貼り合わされているようなので,早速厚紙を剥がし,電池本体を観察できる状態にしました.写真の上部見える板状のものは保護回路のようでした.白い配線は温度センサへの配線でした.電池は8本組が2組,4本組が1組の計20本でした.どうやら2並列・10直列というのは正しそうです.

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「国産動力」とは何だったのか

上の写真を見てもらっても分かりますが,各々のセルには”SAMSUNG”の文字がありました.Google画像検索の結果を見ると,”SAMSUNG SDI”表記のものが多く,”SAMSUNG SDIEM”表記のものは”SDIEM”を検索ワードに入れないと出てこないのですが,”SDI”は韓国での製造,”SDIEM”はマレーシア工場製造ということのようです.

刻印の一番上の列には”ICR18650-22P”とあります.”18650″というのは,直径18mm,長さ65.0mmのリチウムイオン電池であることを示しています.このサイズの電池は規格品であることから,様々なメーカが生産しています.フラッシュライト(懐中電灯)等で使用されることから,最近では秋葉原でも”18650″というそのままの名前で販売されていることがあります.また,規格品であるため,ノートパソコンのバッテリを分解すると18650が入っている,ということもよくあるようです.
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“ICR18650-22P”で調べると,電池のベンチマークを行っているページや,データシートが引っかかります.これらによると,この電池は大電流対応タイプで,容量は2200mAh(=2.2Ah)ということなので,2並列であれば4.4Ahとなり,この点でもシールの表記は正しそうだということが分かります.となると,「国産動力」という表記だけが間違っているということになるのですが,外装の色も含めてよく似せた中国産の偽物の電池なのか,あるいは単に店員が適当にチェックをつけたのか…

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保護回路基板には”Q.C. PASSED”のシールが貼ってありました.基板と手前の放熱板と思われる金属板はネジで止められていました.

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各セルはニッケル板(と思われる)金属板で溶接により接続されていました.

本当に2並列・10直列か確かめる

厚紙を一通り剥がしたので,本当に2並列・10直列の構成になっているのか確かめました.

配線を追いかけていった所,本当に2並列・10直列になっていました.並列になっている電池を1組とし,どのような配置になっているか,以下の写真に簡単に示します.

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8本組のそれぞれの組電池の配線が別のパターンになっていて,さらに右側の組電池の途中に左側の組電池が挟まるようなパターンになっています.様々な電圧の組電池を簡単に作るための工夫でしょうか.

真ん中の保護回路用コネクタは10ピンのXHコネクタで(2.5mmピッチで私もよく使います),各々のセルの組から配線が伸びています.

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保護回路の分解

シール等を剥がし,配線を切ると保護回路だけにすることができました.保護回路はバッテリーのマイナス極と充電端子のマイナス極の間に接続されていました.

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放熱板と基板は両側からネジで留められているので,片側のネジを固定しつつもう一方を回して取り外します.

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分解すると放熱板の裏側には放熱用シリコーンが付着していました.

温度センサ

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白い配線の先には”BH-TB02K-B8D 65℃”表記の白いセンサが.サーミスタか何かかと思ったのですが,型番で検索した所,昔ながらのバイメタルによるスイッチであるサーモスタットのようでした.

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実際に分解してみるとやはりバイメタルでした.

回路のチェック

最後に,保護回路のチェックに移ります.最初に放熱板に接続されていたトランジスタを引き起こしました.トランジスタには”HY3008“とありました.調べてみると,HY3008はNチャネルMOSFETとのことでした.電池のマイナス極側での通電制御をするのであれば,割と普通の構成ではないかと思います.このトランジスタを製造しているのは西安の西安后羿半导体科技有限公司という会社のようです.中国から見ると国産半導体,ということになります.

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HY3008がある面はシンプルなパタンの繰り返しになっています.パタンや基板裏側などを見るに,この基板は13直列まで対応できるように設計されています.6ピンのG2NBという表記のICがどのような働きをするのかが分からなかったため,はっきりとは言えませんが,上部のコネクタからのパタンを追っていくと,縦の列がそれぞれのセルに対応していて,G2NBと書いてあるICの先に2個のMMBT5401(本来は”2L”表記だけのはずなので”:2″という表記が謎ですが,多分合っています)が接続されているようでした.それぞれのセルで異常な電圧が検出されると,HY3008がOFFになり,電池が保護される構成のようです.

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裏面には電流検出用の抵抗などがあり,過電流を検知して電流を遮断するための回路が構成されているようでした.こちらには”XZ A2-13S-FL”とありました.”13S”は,13直列まで対応できるということを示していると思われます.

こちらにはMMBT5551(こちらも同様に”:4″が謎ですが,多分あっています)が使用されていました.

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さらに,こちらの面にはセル数を設定するためのパタンがありました.さらに,通電を制御するHY3008については,2個,3個,4個のいずれかの個数で使用できるようにパタンが工夫されていました(中央から下側のハンダが露出している箇所).若干気になったのは,”Y”の部分をはんだづけし,写真左端のネジの隣の抵抗のさらに隣にも0オーム抵抗を接続しないと,右側の2個のトランジスタに関しては全く機能しないように見える点です.もしかすると,使うかどうかは別にして,とりあえずトランジスタはハンダ付けしてしまっているのかもしれません.

所感

前回のS9014を含め,なぜだか中国製品に使用されているトランジスタはFairchild社(半導体のごく初期から存在する企業で,集積回路の発明者の一人であるロバート・ノイスらが設立.のちにノイスらは退職しインテルを設立しました.)が製造している品種が多い気がします.汎用トランジスタやICについては,同等品を別のメーカが製造することは比較的よくある話ですが,Fairchildが先なのか,中国の規格品に合わせてFairchildが製造しているのか,どっちなのでしょう…

全体的な造りに関しては,基板そのものと表面実装部品のハンダ付けは悪くないレベルだと思いますが,HY3008のハンダ付けがガタガタなのが若干気になりました.シリコーンゴムで放熱板に押し付けられるので,ちょっとしたズレであれば吸収されるので問題はないとは思います.

各々のセルへのニッケル板の溶接が若干甘いところがあるような気がしますが,振動で簡単に全部取れてしまうという雰囲気ではないので,十分といったところでしょうか.どちらかといえば,フィルムによる保護だけでいいのだろうかという点の方が気になりますが,ホバーボード自体がしっかり作られていれば,高所から落とす等しなければ問題ないかもしれません.

シールの表記については,結局「国産動力」のくだり以外はおそらく合っていそうだ,ということが分かりました.電池のベンチマークのページにあるように,2.2Ahのリチウムイオン電池は若干古く,より大きな容量のものもあるようですが,わざわざこの電池をコストと大電流対応モデルという点以外で選択しているとしたら,航空機への積載を意図するしてということになるのではないでしょうか.うーん,空輸してまでたくさん深セン以外で売りさばく人ってどのくらいいるんでしょうか…とりあえず,道路交通法はさておき深センでおみやげとして買って,飛行機に載せられない,ということはないようです(シールは貼ってもらわないといけませんが!).