2024年7月の東アジア旅行記、ソウル・観光編に続いて電気街編です。ソウルは各所に電気街と呼べる場所が分散しているため、それぞれ順に紹介していきます。
鍾路3街駅付近
最初に紹介するのはソウル地下鉄の鍾路3街(チョンノサムガ)駅付近の電気街です。ここは電気街といいつつ、空圧機器などのメカトロ機器を扱うお店も集積しています。また、ここのすぐそばには次に紹介する世運商街という巨大な雑居ビルスタイルの電気街もあります。鍾路3街付近の電気街は世運商街と一体と考えてもいいかもしれません。
先ほども書きましたが、この辺りの特徴としてはメカトロ関連機器のお店も集積していることが挙げられます。その他の電子部品や電子機器を扱うお店も、どちらかというとFA機器などに使う部品を扱うお店が多い傾向があります。また、韓国のお店は比較的この傾向が強いですが、このあたりは土日は完全にお休みというお店が大半であるのも特徴の一つです。
基本的には道路の左右にお店が並んでいるスタイルですが、何個か大き目の建物があり、その中の通路の左右にさらにお店が並んでいるエリアもあります。オムロンのロゴの看板や、パトライトのデモなどはFA機器寄りの品揃えを端的に表しているように思います。
窓に”LED”とパラパラと貼られているお店はなかなか古いLEDを扱っていそうな雰囲気がありました。
おそらくプリント基板の設計代行を行うような店舗もありました。工場で使うような治具基板などの設計を請け負っているのではないかと思います。
世運商街
先ほども書いた通り、鍾路3街駅周辺にはこちらの世運商街という雑居ビル型の電気街もあります。ここはなかなか面白い造りになっていて、最も鍾路3街駅に近い、鍾路から清渓川路(チョンゲチョンロ)、乙支路(ウルチロ)、マルンネロ1、退渓路(トェゲロ)に至るまで、東西に通るそれぞれの通りの間に細長い建物が建っていて、それぞれが商店街ビルになっています。厳密には鍾路側のある程度のエリアまでが世運商街でその先は別の名前が付いているようなのですが、便宜上まとめて扱います。
どの建物も基本的には1階部分の東西に車道が通っており、車道の上に来る部分がペデストリアンデッキになっていて、車道やこのペデストリアンデッキ側に面した店舗と、建物内の通路に面した店舗とがあります。正直なところ結構閉業してしまっていそうな店舗も多いのですが、いかんせん巨大な建物なので、電気街といえるだけの規模は十分保っていると思います。
今回はアーケードゲーム機用のボタンや、ブラウン管ではなく液晶パネルをはめ込んで使うのであろうアーケードゲーム機風筐体などが目につきました。1か所ではなく、建物の何か所かで見かけたので、世運商街のちょっとしたトレンドなのでしょうか…?
その他にもオーディオ関連機器の専門店らしきお店ではカラオケセットが置かれていました。カラオケセットも売っているお店がある国とない国がはっきり分かれるタイプの製品の一つだと思っています。ここの他だと2019年に訪問したマニラのRecto駅周辺で目撃しています。
江辺テクノマート
お次は江辺テクノマートです。今回紹介する電気街の中で、ここだけは他とかなり離れています。とはいっても、地下鉄2号線の江辺駅直結という立地ではあるので、例えば明洞周辺からであれば40分弱でたどり着くことができます。
ここはどちらかというとコンシューマー向けの黒物家電やスマートフォン、PCなどを扱うショッピングモール型の電気街です。ただ、カメラについてはかなり気合の入ったお店がある印象です。こういうちょっとマニアックで高単価な店の方が実店舗が残りやすいというのもあるのかもしれません。
前回2023年の訪問時にも書きましたが、ここは途中のフロアが結婚式場になってしまったりと、電気街としてはちょっと衰退傾向という雰囲気があります。上の写真は前回も触れた楽器店のそばで撮った写真ですが、黒物家電中心だったフロアに白物家電のコーナーができています。家電は家電なのですが、ここでも方向性の変化を感じます。
さらに店舗が出ておらず、ただエアコンの室外機と室内機のセットが置いてあるエリアもありました。
アウトドア用品を展示する一角などもあり、やはり電気街一本足では厳しくなってきているのか…と感じてしまったのでした。
ちょっと電気街からそれますが、江辺テクノマートに行った帰りに地下鉄駅の構内で野菜を栽培している植物工場を見かけました。全部売り切れになっていましたが、収穫後には右側にある自販機でそのまま販売されるシステムになっているのだと思います。植物工場自体は昨今珍しくないかもしれませんが、地下鉄駅の中にあるというのがちょっと面白いと思ったのでした。
新道林テクノマート
江辺テクノマートを紹介したので次はもう一つのテクノマートの店舗である新道林テクノマートを紹介していきます。ここも地下鉄の新道林駅直結で大変便利な立地です。ちなみに新道林駅の隣駅の九老駅が最後に紹介する九老機械工具商業団地の最寄り駅、さらに九老駅と反対側に3駅行くと今度は次に紹介する龍山電子商街の最寄り駅の龍山駅があるという具合に、この辺はいくつも電気街があります。
江辺テクノマートも同じなのですが、地下と1階だけはなぜか電気街でなく、ファッション関係などのお店が入居する普通のショッピングモールになっています。このエリアにはなぜか宣伝ロボットが巡回していました。
2階から上のフロアは江辺テクノマートと同様、コンシューマー向けの黒物家電やスマートフォン、PCなどを扱うお店が並んでいます。2枚目の写真の真ん中に写っているパネルにはデスクトップPCの構成とそれぞれの価格一覧が貼られています。韓国はこういう小さな店舗がPCパーツを集めて組み立てて比較的安価なデスクトップPCを供給するというエコシステムがあるようで、このようなシステム構成別価格一覧を掲げるお店をちらほら見かけます。
さらに歩いていると、店舗ではなくてオフィスのようなテナントが並ぶエリアもありました。1枚目の写真はどうやら芸能プロダクションのオフィスかスクールのようです。2枚目はコンピューター教室のようです。
今回初めて気が付いたのですが、こちらのテクノマートにも8階に結婚式場が入っているのでした。警察署も結婚式場も入っている電気街ビル、かなーり不思議な存在です。
そして9階はスマートフォン関連製品フロアになっていました。江辺テクノマートも似たような傾向がありますが、ここは下のフロアからカメラ→PC→スマートフォンという順にカテゴライズされています。普通はスマートフォンを下に持ってくることが多いと思うので、この並びは特徴的なポイントの1つといえそうです。
さらに上のフロアも見てみようとエスカレーターで向かっていくと、11階にはVenezia Gardenというベネチア風(?)の庭園がありました。
庭園があるので11階が最上階かというとそうではなく、12階が映画館、そして13階を飛ばして14階がありそこが最上階です。14階にはこちらの入り口から行くことができるフィットネスジムがあるのですが、その他にも庭園があるようなことが書いてあったので、エレベーターで向かってみることにしました。
14階に行くと、屋外にこちらの庭園がありました。ミニ景福宮2とのことでした。ちょっと不思議な空中庭園です。
それなりに地上高があるので、端まで行くと結構見晴らしがいいのでした。
新道林テクノマートのビルとしては先ほど書いた通り14階が最上階なのですが、うろうろ歩いていたら隣に建つ40階建てのビルへの連絡口があることに気が付きました。他のフロアにはそういう連絡口は全くなかったような気がするのですが、ここだけつなぐメリットは果たしてあったのでしょうか…
龍山電子商街
先ほども言及しましたが、次に紹介する龍山電子商街は地下鉄2号線などが通る龍山駅のそばに位置します。ソウル駅からもかなり近く、ソウルのどこに泊まっていても比較的訪問しやすい電気街のひとつといえます。
龍山電子商街は以前は龍山駅から一旦外に出て電気街のエリアに出向かなければならなかったのですが、電気街エリアと駅の間にカジノホテルができたこともあってか、今回訪問した時は電気街エリアまでずっと屋根付きの通路を通ってアクセスできるようになっていました。
今回最初に向かったのは龍山駅から向かっていくと最初に見えてくる、1枚目の写真の白いビル、ソニン21・22号館です。
ここは龍山電子商街のなかでも比較的規模が大きい建物かつ、営業している店舗が多数あるので、西側にあるETランドと並んで龍山電子商街の中では見応えがある建物だと思います。1階部分は比較的ライトな新品PCやパーツ類を販売するお店が並んでいます。上の写真の右側にも、先ほど新道林テクノマートのところで紹介したようなPCのシステム構成別価格一覧が掲示されています。
ここは地上4階建てになっていて、上の方に行くとなかなかディープな雰囲気になってきます。意外と空きテナントになっているエリアは少なく、修理業者などがみっちり入居しているような印象です。上層階の通路にはこんな感じで部品が抜かれたPCのケースがずらっと並んでいたりする場所が多くあります。
1階の外の道路に面したエリアにはPCパーツではなく工具などを扱うお店もありました。1枚目の写真の雰囲気から電子部品も扱っているかな?とちょっと期待したのですが、入ってみた感じだと工具専門店のようでした。
ソニン21・22号館の裏手にはレンガ風3の見た目が渋いナジン19・20号館が建っています。龍山電子商街のビル群は基本的に番号が振られているのが特徴です。ここはナジン~号館シリーズの中ではオーディオ機器店などが比較的残っている方でしたが、おそらく建物がソニン21・22号館よりも古いこともあってかやや寂れた雰囲気になっていました。
ナジン19・20号館のあたりから通りを西に歩いて行くと、ナジン~号館シリーズの建物がいくつも見えてきます。どれも基本的にレンガ風の見た目の茶色いビルです。こちらも中をざっと見てみましたが、通り沿いのお店以外はかなり少なく、さびれた雰囲気です。
ナジン~号館シリーズはなかなか古そうだよなあと思いながら歩いていると、次に紹介するETランドの隣に建っているナジン12号館が解体されている現場に遭遇しました。すぐ後ろに建つカジノホテルを見てもわかるように、この辺りはまさに再開発の最前線といった状態になっているようです。ちなみに写真中央に見える垂れ幕の文章をGoogle翻訳で確認したところ、解体後再建する旨の内容が書いてありました。再開発後も電気街エリアが残ることを個人的には期待しています。
龍山電子商街の一番西側に建っているのがこちらのETランドです。ここは比較的新しい建物ということもあり賑わっていて、先ほども述べたように龍山電子商街の見どころの1つかと思います。
ETランドは電子部品店やOA機器店など、比較的業者向けの色が強いお店が地下フロアに集まっています。純粋な電子部品店はちょっと少なめですが、工具や測定器などのお店もあり、比較的取り扱い商品のバリエーションは豊かだと思います。
ETランドの地下の電子部品店として一部(?)で有名な東信電子にも向かったのですが、あいにくお昼休みだったのでした。土日にやっていなかったり、きちんとお昼休みがあったりと、この辺りのお店はふらっと行くにはちょっと落とし穴が多いかもしれませんね…
一方で地上階はコンシューマー色が強く、比較的ローカルな雰囲気のお店が並ぶエリアでは写真の通り個人向けにデスクトップPCを売るお店などが並んでいます。
ETランドが龍山電子商街の他の建物と違うのは、こちらの写真のようなかなり大き目なショールームのようなテナントも入居している点です。1枚目の富士フイルムのショールームは以前からあったと思いますが、バルミューダのショールームは以前は無かったような気がします。
さらに歩き回っていると”NFT4 GALLERY”なる店舗がありました。なんともイマドキな感じです。
さらに歩いていると、レゴを使ったSTEM教育ワークショップをやる店舗などもありました。ETランドは上層階に映画館が入っていたりするくらいで、以前から電気街一本足ではない建物でしたが、ジャンルの多様化がさらに進んでいる気がします。
さらに歩いて行くとマセラティのショールームができていたり、BYDの軽トラ風の商用車が展示してあったりと、やはり何でもアリ感が増していると感じたのでした。
九老機械工具商業団地
そして最後に紹介するのは地下鉄の九老駅そばの九老機械工具商業団地です。ここは名前の通り、電気街というよりは機械部品を扱うお店が並ぶ機械部品街です。
こちらも龍山電子商街のナジン~号館シリーズと同じく、なかなか古めかしい見た目なのですが、扱う商品カテゴリが違うからなのか、今でもかなりの賑わいを見せています。鍾路3街駅付近といい、工場関連の製品を扱うお店が並ぶエリアがソウルの中心部から近いエリアにあるあたりから、ソウル周辺にはこれらの電気街や機械部品街を必要とするだけの需要家たる工場がまだまだ多数集積していそうな雰囲気を感じます。
前回2023年の訪問時は気が付かなかったのですが、私と同じく各国の電気街を調査して回っているいしかわきょーすけさん(@qx5k_iskw)に以前、ここの地下にはこの団地で働く人向けと思しき食堂などがあると教えてもらっていました。そんなわけで、前回はビビって行かなかった地下フロアにも行ってみました。この団地は何棟もの建物が連なっていますが、建物と建物の間のエリアも含めて地下は繋がっていて、そこでは確かに食堂などが営業していたのでした。
実はこの時の本命はこの機械工具商業団地ではなく、このさらに先にある中央流通団地でした。中央流通団地はここと同様、工場向けの機器が中心ですが、機械部品ではなくFA機器や電子部品などを取り扱うお店が集積している電気街です。しかし機械工具商業団地を見ている間にかなり激しい雨が降ってきてしまい、また電気街調査に使える残り時間も少なくなっていました。そんなわけで、今回は泣く泣く中央流通団地の調査は見送り、機械工具商業団地からUターンして九老駅へと向かったのでした。
以上、2024年の東アジア旅行記、ソウル・電気街編でした。自分で行っておいてなんですが、よくもまあこんなに電気街を回ったものです。しかしほとんど秋葉原一極集中の日本の首都圏5と違って、コンシューマー向け、FA関連業種向けなど、ジャンル別に何個か電気街らしいエリアがそれなりの規模で散在しているのはソウルの結構面白いポイントかもしれません。駅から近くアクセスがいい場所も多いので、普通の(?)ソウル旅行の際に1か所だけ覗いてみる、というのもアリだと思います。次回はいよいよビールフェスティバルの開催地、青島編に突入です。お楽しみに!