概要

真空管を使ったオーディオパワーアンプとそれに合わせるスピーカーを製作しました。

動機

部屋を片付けていたところ、長らく死蔵していた真空管とスピーカーユニットが出てきました。真空管はだいたい10年くらい前に買ったもので、真空管を12Vで駆動するヘッドフォンアンプであるYAHAアンプを作るために、何本かハムフェア1で買い集めた6DJ8/ECC88と呼ばれる真空管です。スピーカーユニットの方もこれまた古く、雑誌”Stereo”の2013年8月号の付録だったScan-Speak社製の5cmのスピーカーユニットです。これらをまとめて使ってしまおうと考え、今回アンプとスピーカーを作ることにしました。

以前はデジタルアンプとジャンクで買ったONKYOのスピーカーを使っていたのですが、スピーカーが大きすぎて邪魔だったこともあり、引っ越しの際に撤去してしまっていたのでした。それからはTVのスピーカーをメインで使っていました。当たり前ですが、TVのスピーカーはHDMI等で映像ソースとセットで音声入力しないといけません。アナログの音声入力を持った環境がやっぱり一つくらいあった方がいいなあと思ったことも製作の動機の一つです。

製作方針

今回の製作方針は以下の通りです。

  1. 在庫の真空管とスピーカーユニットを使う
  2. コンパクトに作る
  3. 電源トランスは使わない
  4. 半導体を使ってもOK

まず1.についてはもともとの動機を考えれば当然の話です。

2.については私の作業机にはTVが鎮座していますのでサイドに大きいスピーカーを置くスペースはなく、メタルラックを組んで確保したオシロの上空のスペース(幅約400mm x 奥行き約250mm) に入るサイズで作る必要があるという制約です。

3.は2.に絡んでいますが、大きく重くなってしまう電源トランスは使わず、真空管を使う上で必要な100V~200V程度のB電源はDCDCコンバーターで生成し、省スペースに仕上げる設計にしました。今回はさらにDCDCコンバーターの電源となるACアダプタについても、昨今多数出回っているGaN素子搭載のUSB PD対応のACアダプタと、そのACアダプタから強制的に15Vを出力させるトリガーケーブル2を使い、コンパクトにまとめました。

4.は在庫が消費できればよいので、全部を真空管で作らなくてもよい、という方針です。真空管の多段構成だといろいろ考えることが増えるので、今回はあまりいろいろ考えなくて済むように初段はオペアンプを使って楽をしました。

回路図

入力のボリュームとアウトプットトランスが描き入れられていませんが、回路全体はこんな感じです。ベースになったのは以下の作例です。

初段のオペアンプはゲイン10倍の反転増幅回路を構成するとともに、6VのDCバイアスを加える働きをします。

今回、後段である6DJ8にはLM317による定電流回路によりバイアスをかけ、プレート電流が約10mA流れる設計としています。また、6DJ8のEp-Ip特性から、このときグリッドの電圧がカソードに対して-1V~-3V程度で振れるように設計しました。方針のところに書いた通り、今回はDCDCコンバーターでB電圧を作っているので、組み上げた後、無信号の状態でB電圧を調整し、カソードバイアス電圧がおおよそ8Vとなるようにしています。オペアンプ側で加えられる6VのDCバイアスと合わせて、グリッドがカソードに対して無信号時に-2Vとなるわけです。

また、TP5とTP6に出力トランスのスピーカー側端子を接続することでNFBをかけられるようにしています。今回はだいたい5.2dB程度のNFBをかけている計算です。

電源についてはB電圧と6.3Vのヒーター電源にDCDCコンバーターを使っています。ここで6.3Vを作るのに使ったMP2359も死蔵していたICで、気が付けばメーカーはNRND3としていたICでした。B電源の方はMAX668というPWM制御のコントローラーICを使っています。気休めにRCフィルタを噛ませていますが、スイッチング周波数が高いこともあって、これといって有無での違いは判りませんでした。

オペアンプ用の電源は大した電流も引かないだろうとシンプルに7812で作っています。この7812はちょいちょい使ってはいるものの、まだまだたくさん持っているので、いい在庫消費になりました。

そのほか、ちゃっかり真空管の底に仕込んでイルミネーションする用のLEDをヒーター電源を使って点灯させています。流行りの緑や青色は使わず、ヒーターの色に似ているオレンジ色のLEDをチョイスしました。

アンプの組み上げ

できるだけコンパクトに組みたいということと、DCDCコンバーターの採用等で小さい部品も多数あるということで、真空管アンプの自作でよく見るラグ板を使った配線ではなく、プリント基板を使っての配線としました。

当初は真空管による後段部と、各種電源を生成する電源基板の2分割とし、電源基板に用意したユニバーサル基板エリアで初段の試作をしました。真空管部のゲイン等をこの環境で確認し、初段の定数を決めるのに活躍しましたが、調子に乗って電源基板側に超大型のインダクタを採用したりしたため、結構トータルサイズが大きくなってしまいました。そのため、回路が固まったところで再度基板を起こし直しました。昨今はプリント基板も中国の業者に頼めば安く早くできるので便利です。

新しい基板をアルミケース(幅120mm x 高さ50mm x 奥行き175mm)に組み込んだところです。配線が汚いのはご愛敬ですが、なかなかコンパクトにできたかと思います。背面部のスピーカーターミナル用の四角い穴を開ける際にはハンドニブラを使ってみました。ハンドニブラ、なかなか楽しいですね。また、ケースの左右にあるケーブルクリップは3Dプリントで作ったものです。

ちなみに基板はもともとケース底面から20mmの位置に配置する前提で、これまた在庫の20mmスペーサーを使って取り付けたのですが、いざ蓋を閉めてみるとコンデンサがわずかに干渉していたため、急遽在庫の15mmスペーサーと4mmスペーサーを持ってきて1mmだけ基板の位置を下げ4、事なきを得ました。持っててよかった大量の在庫、です。

天面の穴はドレメルのハンドドリルとリーマー、シャーシパンチを使って開けました。手前の真空管を通すための一番大きな穴が初めてシャーシパンチを使って開けた穴ですが、シンプルな原理ながらきれいに穴が開いて感心してしまいました。

そんなこんなで蓋を閉めて出力トランスを取り付けるとこんな感じになりました。電源スイッチはこれまた在庫(多分秋月で買ったトグルスイッチ)、ボリュームのつまみは新規にマルツで買ったものです。

スピーカーの製作

さて、アンプの方ができたところで次はスピーカーの製作です。製作方針の2.に書いた通り、幅約400mm x 奥行き約250mmの底面積に収まるようにスピーカーとアンプを作らねばならないため、スピーカーはかなりコンパクトに作ることになりました。死蔵していたスピーカーユニットはたまたまコンパクトな5cmのスピーカーユニットだったので、今回の製作方針にはうってつけといえます。

スピーカーは12mm厚のパイン集成材を使い、幅100mm x 高さ150mm x 奥行き150mmで設計しました。実際には背面にスピーカーターミナルが来るので、奥行きの制約値である250mmよりも短めの奥行きとしています。このユニットは長いこと平面バッフル的なものに取り付けてテスト用には使ったりしていたのですが、そこまで低音が不足する感じもなかったことと、あまりややこしい工作はしたくないなということで、バスレフ型などにはせず、シンプルな密閉型のエンクロージャーとしました。

木材は通販で購入し、業者さん側で直線カットのみ行ってもらいました。ターミナル用の穴あけはドリルで行い、スピーカーユニットを取り付けるための穴はCNCフライスを使って開けました。単純な丸穴ではなく、スピーカーユニット本体のターミナルが干渉しないように少し逃げがあるような形状に加工しています。

吸音材はこれまた秋葉原のコイズミ無線で買って死蔵していた吸音材を使いました。側面1面を残してほかの面をすべて組み立てた後、適当に両面テープでペタペタ貼り、ざっくり出音を確認したら最後の面も接着して1日待てば完成です。今回は気になる細かいところにはやすりがけをしたりはしましたが、面倒だしまあ木目もいいかということで塗装はなしです。

完成

スピーカーも完成したところで真空管アンプと接続し、メタルラックに設置してみました。狙い通り、ぴったり収まっています。上の写真では3Dプリントしたトランスカバーも取り付けています。もともとはねじで固定しようと思ったのですが、出力トランスに微妙に当たって(!)いい感じにホールドされているので、このままでOKとしました。そんなに耳がいいわけではないですが、自作したアンプとスピーカーだと、なんだかいい音で音楽が聴こえる気がします。

まとめ

今回は死蔵していた真空管とスピーカーユニットを活用するというテーマで、オーディオパワーアンプとスピーカを製作しました。真空管アンプについてはDCDCコンバーターやUSB PDなACアダプタの活用、3Dプリントによる周辺パーツ製作など、ちょっと今時な感じの真空管アンプに仕上げることができたと思っています。スピーカーに関してもスピーカーユニットの取付穴を加工するにあたり、CNCフライスの環境整備を再度やり直したりと、全体として単なる在庫活用以上にいろいろと自分の持っている部品・工具等を活用できた製作でした。

  1. アマチュア無線のイベント。ジャンク市的なモノを内部で開催する団体がちょくちょくあるのです。
  2. 要するに接続先は15Vで受電できる機器であるとACアダプタに対して申告する機能を備えたケーブルです。
  3. Not Recommended for New Design。新規設計への採用は非推奨。今後製造を打ち切る見込みなので新規に設計するときには使わないでね、という意味。
  4. これ以上下げると底面側のコンデンサがケースにぶつかるのでした
公開日:2021/08/13